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最近読んだ本の感想 vol.8

2011年10月17日
 おっと気がつけば10月も半ばを過ぎているじゃないですか!やだー!もう今年も終わっちゃうよー!というわけで、1カ月と少々ぶりの更新であります。いや、感想書きたい漫画やら小説はあるんだけども、なんとなくブログの更新をするのが億劫で…。まぁ、あんまり気張らずにこれからもやっていけたらいいなと思っています。Twitterの方では随時、読んだ本や漫画の感想、観た映画・アニメの感想なんかを呟いておりますので、こちらの方も合わせてよろしくお願いします。さて、今回の更新は小説の感想です。

・メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』
 言わずと知れたゴシック・ロマンスの傑作。何度も映画化されているのでストーリーは知っているという人は多いと思うが、実際に原作を読んだ人となるとその数はぐっと減り、またフランケンシュタインを怪物の名前だと勘違いしていたり、”怪物”は頭にボルトが刺さっていて「あーうー」としか喋ることが出来ないと勘違いしている人は多いのではないだろうか。

 本書の構成は、北極に探検に来た才気あふれるが理解者がいないことを嘆く冒険家の若者ロバート・ウォルトンが実姉に出した手紙、つまり伝聞の形をとっており、ウォルトンの現在→フランケンシュタインの過去→怪物の過去→フランケンシュタインの過去→ウォルトンの現在、という順番で時系列順に物語は語られる。

 船に乗り北極探検に向かったウォルトンは、ある日流氷の上で遭難している人物を保護する。その人物がヴィクター・フランケンシュタインで、彼は体力が回復するにつれ、自分がなぜこんなところで遭難するに至ったかをウォルトンに語りだす。その過去こそ、名も無き”怪物”を創り出してしまった事であり、その怪物によってもたらされた惨劇であった…、というのが大まかなストーリー。

 『フランケンシュタイン』は孤独の物語である。ヴィクターは無責任で終始自らがなしてしまったことについての責任から逃れようとし、結局愛するもの全てを失ってしまう。怪物の方は、産まれた瞬間に創造神(=ヴィクター)から見放されることになり、放浪の末辿りついた森での暮らしで自然の美しさを知ったものの、その後小さな村の納屋に隠れそこに住む家族を観察し様々な事を学ぶうちに、自分がとてつもなく異形で自分の理解者はこの世に1人もいないという現実に気付かされる。

 2人の孤独なキャラクターは旅の最後で何を見るのか、それを是非読んで確かめて欲しい。出版されて200年近く経っても、読後、胸にこみ上げる虚しさは何ら色褪せていない。

 ちなみに、『フランケンシュタイン』を考察する際に定石となっているのが、”心理学的読み”および”科学的読み”である。前者は<抑圧された本能=汚く醜いものが脅威となって回帰してくる>物語として本書を読むことであり、後者はブライアン・オールディスが著書『十億年の宴』で持ち上げたことで定説化した、つまり、フランケンシュタインの怪物とは、それを発明した人間の手から”自走するテクノロジー”の脅威ということである。
(この文章を書くにあたって風間賢二氏の『ホラー小説大全 ドラキュラからキングまで』を参考にし、一部引用させていただいたことを最後に記しておく。最高のホラー小説入門書&ガイドブック&評論の書である。)



・ガイ・バート『ソフィー』
 「ミステリで何か良作が読みたいな~」と考えていたら、最近はすっかり落ち着いてしまった感のあるサービス、”ザ・インタビューズ”でこんなものを見かけた。

海外ミステリ初心者なのですが、何がオススメですか?5冊ほど挙げてくださると嬉しいです。よろしくお願いします。

 私もミステリ初心者であったことと、入手が容易で現役で活躍されている作家の作品という事で興味を持ち、とりあえず買ってみたのが、この一冊。想像以上の読書体験を与えてくれた。

 嵐の夜に、蝋燭のみを灯した影の濃い荒れ果てた部屋の中で拘束された女性ソフィーと、彼女を監禁状態にしている男でありソフィーの弟でもあるマシューが「ソフィー?殴ったりして悪かったよ。ほんとは、乱暴なんかしたくない。でも――わかるだろ?嘘はいやなんだ。そういう段階はもう過ぎた。駆け引きはごめんだ。いいね?」となんだか色々な事を示唆するようなセリフを述べるシーンから唐突に物語は始まる。
 本書は、2人の過去と現在の状況とが交互に語られる構成をしており、過去パートでは2人の子供時代の幸せだけれども、ソフィーの謎あふれる行動に疑問をうっすらと抱くマシューの思い出が語られ、現在パートではその過去の思い出を元に現在なぜ拘束されている/拘束してしまったかが徐々に明らかになっていく。

 イギリスの片田舎の田園地帯で育ち、採石場跡や広大な庭に秘密基地を作り、近くの森で遊ぶ姿は美しく正に<楽園>のようだが、その一方で、ほこりっぽい居間に居座り子供たちの面倒を見ない母親、滅多に姿を見せない父親、ソフィーが時折見せる謎めいた行動が物語に不穏な気配、穏便に終わることはないだろうという予測を与えてくれる。

 何を語ってもネタバレになってしまいそうなので多くは語らないが、隠喩や暗喩を多く用いた文章を読み進めていくうちに、前述の謎が明らかになっていく様は快感でもあったが、子供時代つまり<楽園>の終焉、そうせざるをえなかった姉ソフィーの行動と、現在の状況を作りださずにはいられなかった弟マシューの目的もまた同時に明らかになっていくので、哀しさと諦念も感じざるを得なかった。

 面白いミステリが読みたいならこの作品を読んでみればいいと自信を持って薦めることが出来る作品。目を皿のようにして少しの情報も逃さないように注意しながら、瑞々しい情景描写に純粋に心を委ねてみよう。


 えー、もう一作紹介しようかと思ったが、久々の更新なので、このくらいで勘弁して下さい。どうやって文章を書いていたかをすっかり忘れてしまった気がするが、以前の文章を読み返してみるとたいして変わっていないことに気づいた絶望感に浸りながら筆をおきたいと思います。
 
 それでは、次回の更新(なるべく早くくるようにするよ!)でお会いしましょう!
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後ろめたい幸せを抱えて、私はここに立っている。北野勇作『きつねのつき』を読もう!

2011年09月09日
 台風一過、随分と秋めいてきた昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか?季節の変わり目は体調を崩しやすい時期でもあります。体調にはくれぐれも気をつけましょうね!
 ところで話は変わりますが、9月3日と4日に静岡にて開催された第50回SF大会”ドンブラコンL”に参加してまいりました。最初は、そのことを記事にしようかとも思ったのですが、余り良い体験が己の未熟さゆえ出来ずじまいでしたので止めにしました。変わりと言っては何ですが、何枚か撮ってきた写真をTwitpicの方にアップロードしておきましたので興味のある方はこちらからどうぞ→@Sacred_Maggot
 さて、それではレビューに入っていきましょう。

・北野勇作『きつねのつき』
 2011年に入って2冊目の北野さんの著書『きつねのつき』である。5月に出た『かめ探偵K』は拙ブログでも取り上げているので、興味のある方はここを参照のこと。

 では、今作『きつねのつき』の話に入っていこう。

 本作の主人公”私”には妻と春子という名の娘がおり、娘と”私”の日常を北野さんらしい時に優しく時にシュールな文体で綴られた連作短編集といった体をなしている。このように書くと、単なる育児エッセイのように聞こえるかもしれないが、北野さんの作品なのでそうは問屋が卸さない。
 というのも、どうやらこの作品の中で日本は軍事的な危機に晒されており、それに対抗するため人工巨大人というものを開発していたらしい。しかし3年前のある日、事故が起こった。起動実験に失敗した、他国のスパイの仕業、何らかの攻撃を受けたなど様々な原因が推測されたがどれも噂の域を超えないものであった。現実として人工巨大人は起動に失敗して大地に倒れ込み、周りの質量をどんどん吸収した結果、なし崩しに融解が始まり、液状化した人工巨大人の構成物質である超活性細胞の波によって町は呑み込まれることになる。その人工巨大人を開発していた会社に勤め、事故直後の現場にいたのが何を隠そう主人公”私”なのだ。超活性細胞の波に呑み込まれた人の大半は人としての形を失くしドロドロになってしまったのだが、”私”は違った。超活性細胞を体に取り込むことによって人の形をしたヒトならざる異形のものになってしまうのだ。
 その後、倒れた人工巨大人にはその存在をあたかも最初からなかったことにするように空から土砂が撒かれ、町は高い塀によって外界と隔離され、外界から訪れる者は完全防護服を着て訪れる、そんな町になってしまった。

 そして”私”の妻はどうなったかというと、産休中で家にいたために逃げ遅れ、超活性細胞の波に呑み込まれて肉の莢でできた蛹の様な物体になり果てていた。それを悲しんだ”私”は、倒れた巨大人の体内に忍び込み超活性細胞を頂戴して、それを用いることで妻を再構築する。するとある朝目覚めると4畳半の自宅の部屋の天井に妻は貼りついていた。それが元の妻と同じかどうかは誰にも分からないが、とにかく”それ”から娘が産まれた。
 ”私”の願いはただ一つ。「静かに家族とここで暮らしていきたい」というもの。後ろめたい幸せを感じながら、”私”は今日も娘を公園に連れていったり、保育園に迎えに行ったりして過ごしている...。

 こういった背景は最初に説明があるのではなく読み進めていくうちに徐々に明らかになってくる。すると、娘と”私”の日常は楽しそうで朗らかなものであるはずなのに読み始めから心のどこかで感じていた寂しさや心にポッカリと穴のあいたような気持ちに理由がついていく。幻想的な章や変わり果てたグロテスクな妻や”私”の姿の描写もまたそれに拍車をかける。無邪気に遊ぶ娘の姿に共感を覚え胸が温かくなる一方、終わりの到来を予期する”私”には諦念、虚無感といったものを感じ取れるだろう。結末がまた秀逸で、儚さから垣間見える美しさとグロテスクの中にある美が同居した感動を、読者に与えてくれる。自分は読み終えた後、頭がボーっとしてしばらく何も考えられなかった。今の日本の様々な惨事がある現状に絶望している人、本当に大切なものは何かを見失っている人にこそ読んで欲しい1冊である。

 ちなみに、これは楽屋裏話になるが、Twitterで北野さんにお伺いした所、もともと保育園の送り迎えのときのなんとも妙な感覚を文章で定着しておこうと思って書きはじめた小説であり舞台は北野さんの地元に本当にある所を登場させている、ということだそうだ。これほど幻想的な感覚を日常で感じられる感性に驚くばかりである。

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最初の一歩は怖いけど、友達がいるから大丈夫!ヤマシタトモコ『BUTTER!!!(3)』を読もう!

2011年08月31日
 台風が接近しているせいか風が物凄く強いですね。9月3日、4日と日本SF大会が静岡で開催されるのですが、大丈夫なんでしょうか?モロに直撃コースを辿っているような…。まぁ、屋内のイベントですし大丈夫でしょう!
 というわけで、9月最初の更新です。誰か褒めて下さい!嘘です。もうちょっと更新を頻繁にできるように頑張りますです。押忍。

ヤマシタトモコ『BUTTER!!!(3)』
 もはやこのブログではお馴染みのヤマシタトモコさんによる青春群像漫画『BUTTER!!!』のレビューです。前回の記事はここを参考にして下さい。だいたい1巻と2巻の最初あたりに触れています。
 というわけで3巻です。人気も順調に獲得しているようで、ファンとしては嬉しい限り。読み切りなどで大人の恋を描いた漫画も面白いのですが、『BUTTER!!!』は、描いていて楽しいんだろうなというのと、ヤマシタさんがどんな事を伝えたい・読みとって欲しいかが如実に表れていて、読んでいてこちらまで楽しくなってくるような漫画に仕上がっています。
 さて、そういうわけで3巻ですが、3巻の見どころは何と言っても、柘百合子こと”げっつ”が自分の殻を破り、頑張ることを決めた所です!背が高く、グラマーな彼女は自分の外見にコンプレックスを持っており、普段の生活では猫背で内股、さらに前髪で顔を隠し眼鏡も小学生のころから使っている洒落っ気の全くないものを使ってなるべく目立たない様に目立たない様に生きてきました。でも高校生になって自分を変えてみようと思い、社交ダンス部に入ったのはいいけれど、やはりコンプレックスというものは部活内ではかなり打ち解けていても、そう簡単に治るものではありません。
 そんな中、ちょっとした事件が起こります。部活仲間と帰校中、柘さんの事を中学の時から好きだった他校の男子が待ち伏せして柘さんに告白しようとするのです。でも柘さんは、中学の時にその男子から嫌な事を言われた記憶しか持っていない、加えてそのことが少しトラウマになっているんですね。一応フォローしておくとその男子も本心から言ったわけではない、逆に柘さんの事が好きだから意地悪してしまった、よくある若さゆえの過ちだったのですが…。でも彼が言った言葉は彼女を傷つけた。もう柘さんは顔だって見たくないほどその男子の事を嫌いになっていた。
 逃げるようにしてその場を立ち去った柘さん。前向きに考えていた文化祭の企画も自分は裏方に回して欲しいと部長に願い出て、開きかけた扉を自ら閉じてまた岩戸の中に籠ろうとします。しかしそこで柘さんにとってのアメノウズメとなったのは元気印で友達思いの夏ちゃんでした。夏ちゃんだってつい先日まで目立つ行動を取るのが苦手だったのを何とか克服したばかり。だから、まだまだたどたどしくて上手に気持ちを伝えられないけれど、夏ちゃんは自分の”気持ち”をこう伝えます。

(生活指導の先生に髪のことでイチャモンをつけられ仕方なく女子トイレで髪を結いあげてもらった後、クラスメイトから戦えよと励まされる)
夏「……「戦え」だって」
柘「……やだよ」
夏「……あ あたし… は …自分の好きなものを嫌いって言われると悲しいし悔しい」
 「あたしは好きだし あたしのセンスだもん 自分の好きなもの 人も好きだと嬉しい」
 「げっつのつらさはあたしにはわかんないよ わかんないけど――――」
 「あ あたしはもっと大人っぽい外見がよかったし!なりたいし!」
柘「そんなの…」
夏「…げっつがさ!自分のこと嫌いって言うと!そ…それを好きなあたしの事も否定してんじゃん!やだよ!!!
 「あ あたしは好きなのに…!
 「げっつのバーーーカ!!!逃げ虫ー!!!

 友達に対して面と向かって思ってる事をストレートにぶつけることって凄く難しいし、とっても恥ずかしい。ましてや高校生なんだから、なおさらです。でも夏ちゃんは顔を真っ赤にしながら上記の内容の事を半ば最後は叫びながら伝えます。だって”げっつ”にも、フツーじゃないってサイコーだという事を知って欲しいから!僕なんかは、もうこのシーンで目頭が熱くなってしまいました。
 そして顔の線が隠れないような髪の結い上げをしてもらった柘さんは鏡を見て、決心します。でもやっぱり怖い。それはそうです。戦う事を決意しても怖いものは怖い。今まで隠してきた期間が長ければ長いほど、その怖さは大きいでしょう。そんな最後の一歩を躊躇していた柘さんの背中を押したのは以外にも、端場くんでした。男子トイレに行く途中だった端場くんは、中学の時の彼を軽く虐めていた調本人に「おっ 高校デビュー君(プッ」と冷やかされます。仲間が侮辱されたことでカチンとなって何か言ってやろうと口を開きかけた瞬間、端場くんがこう叫び返します。

わ わ わりーか!うるせーー じゃますんじゃね ねーーよ!!!

 どもってるし啖呵としては迫力に足りないけど、こんなこと言えるのは素晴らしい進歩です。だってこの間までは頑張ることってダサいと勘違いしてたんですから!端場くんはちゃんと前を向いて進んでることに励まされた柘さんは、最後の一歩をこうして踏み出したのでした…。

 いやー…、熱い!熱いよ!こんな部活にかける青春も送ってみたかったなぁ~。読んでいて励まされるし元気をもらえる、『BUTTER!!!』はホントに良い漫画です!あとやっぱり、頑張ってる人を見るのは気持ち良いですね!元気を貰える。明日も生きていけそうな、そんな気分にさせてくれますから。
 ちなみに、ここまでが前半部分で、3巻の後半は宝塚大好きイケメンリア充くんこと掛井涼くんが一皮むける話なんですが、まぁいいよね?男だし。イケメンだし。あと、イケメンだし


あ、一応げっつのビフォア―アフター貼っておきますね!
BUTTER!!!_01

べ、別人じゃねーか!!!結婚を前提にお付き合いして下さい!!!(←ほんと男子っていったいどこ見てたのかしら?サイテー!)

 さて、というわけでいかがだったでしょうか?いや~、漫画ってホントにいいものですね!それでは、次の更新でまたお会いしましょう。さよなら、さよなら、さよなら!


漫画 | Comments(0) | Trackback(0)

最近読んだ本の感想 vol.7

2011年08月29日
 さて、SF大会も今週末に迫ってきましたね!初参加という事で少々緊張しております。「えっ?まだ1000冊読んでないの?」とか言われて塩をまかれない事だけを祈っています。
 8月はSF大会の事もあり、個人的にSF強化月間にしようと思っていたのですが、結局いつも通り色んなジャンルをつまみ食いして終わりそうです。そんな中から3冊、今回もチョイスしましたので紹介していきたいと思います。

パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』ハヤカワ文庫SF
 発売当初に買っていたのですが、結局読んだのは今年の8月に入ってから。かなり話題にもなり、面白いという評判を前もって聞いていたのに何故積んでいたかというと、理由は1つ。帯に『ニューロマンサー』の文字があったから。僕は『ニューロマンサー』に3回挑戦してそのどれもにおいて途中で挫折しているので、頭の中に苦手意識が植え付けられた小説となってしまい、以来ずっと避けてるんですよね。それがあったので帯に”『ニューロマンサー』以来の衝撃”なんて書かれていると、これはもう読む前から「嗚呼、また俺はこうして挫折感を味わうのか…」なんて不貞腐れていたんですよ。けれども、これがどうして読んでみると冒頭から「どうしてこんな世界になっているんだろう?」という興味が尽きず、一気に読了することが出来ました!ハレルヤ!
 ストーリーを簡単に述べると、”石油資源が枯渇し温暖化が進んだ近未来のバンコクが舞台。世界的に沿岸都市は海にのまれ、農作物には新種の疫病が流行しているため、遺伝子操作をした農作物しか育てられなくなっている。そしてその遺伝子改造技術をもった企業(カロリー企業と揶揄されている)が世界経済を実質支配している。そんな中、バンコクは豊富な失われた遺伝子プールを保有しており、カロリー企業からそのデータを狙われている。主人公のアンダースン・レイクもカロリー企業の一員で現地で新型ゼンマイ(新たなエネルギー手段)を開発するのを隠れ蓑にその遺伝子プールの獲得を画策するのだが…”といったもの。
 世界がどうしてこうなったかの説明は書かれていないので断片的な情報から推測するしかないのだが、キャラクターの魅力、その中でも新人類と呼ばれるアンドロイド”ねじまき少女”のエミコから特に目が離せなかった。エミコは日本の金持ちの秘書兼愛玩道具として働いていたが、タイへの出張についてきた際、現地で捨てられてしまった。肌を美しく見せるため毛穴の数が極端に少ないエミコは、熱帯のバンコクでは生きていけない。頼るあても無く金も必要なエミコはストリップバーで働くこととなる。人間に従順になるように躾けられたエミコはそこでSMプレイの格好のM役として屈辱に耐え、幾ばくかのお金と体を冷やすための氷水を得ている。なんとも、自分好みの設定なので、読み進めれば進むほど彼女の事が気になって仕方が無かった。
 また東南アジアのタイ王国という国と、そこでの土着の信仰もまた、小説を盛り上げる設定として使われている。タイのもつエネルギッシュさ(悪く言えば猥雑さ)がこの本からは感じられる。またこの本の舞台バンコクでは政情も不安定であり、それもまたこの『ねじまき少女』の世界のスリリングで切羽詰まってることを読者の脳裏に喚起させる。
 とにかく読んでいて、事件がドンドン起きるので全く飽きが来ない。未読の方はできれば夏が終わる前に、クーラーの効いた部屋では無く、蒸し暑い部屋で読むと臨場感が増しますよ!



アルフレッド・ベスター『ゴーレム^100』未来の文学
 この本はベスターという狂人の書いた本の中でも最高の一作なのではないだろうか?LSDで脳味噌が沸騰しているかのような強烈な文章に、こちらの頭がどうにかなりそうだった。とにかく下品で、グロテスクで、暴力的で悪趣味なのだが、間違いなく面白い。
 <蜜蜂レディ>と呼ばれる特権階級の女8人が暇つぶしに始めた悪魔を召喚する儀式で召喚された彼女たちのイドを反映した怪物"ゴーレム^100"が起こす殺人にレイプ。それを調査するというアクションミステリーの要素をとりいれながら、サイケデリックアートを用いイドの世界を表現したりしていて、ベスター節全開で物語は進んでいく。終盤の展開は百鬼夜行、乱痴気騒ぎのフリークショー。もはやそんな語彙では表す事が出来ないような、凄まじい展開が待ち受けている。言葉遊び、ダジャレ、下ネタ、グロテスクな表現が多用されているが、よくぞこれを邦訳できたなというのが読みおわって最初に感じたこと。
 『虎よ、虎よ!』で少しでもこの作家好きだなと感じた人は読んでみて損はしないと思う。


J・G・バラード『殺す』創元SF文庫
 なんとも挑発的なタイトルのこの本。Amazonのおすすめ商品に上がってきた時から気になっていたので購入した。SF作品というよりミステリではあるが、この作品から現代の犯罪を想起せざるを得ないという所ではSFかもしれない。読後には何とも言えない虚しさのような物が残った。
 外部のコミュニティと隔絶された箱庭的高級住宅地に住む上流家庭の家族たち。子供たちは両親から充分な理解を得て、溢れんばかりの愛情を注がれていた。しかしある時、そこに住む大人が全て殺され、子供が行方不明となる事件が起こる。精神鑑定医のドクター・グレヴィルは独自の視点から調査を開始し始めると思いがけない事実が浮かび上がってくる...、といったストーリー。
 ネタバレ抜きに語るのは難しいのであまり多くは語らないが、なんとも切ないなと自分は思った。鬱屈した感情を溜めていると、いつかどこかで間違った方向へと爆発してしまう。誰もが分かっているはずのことなのに、社会では我慢が美徳とされている。そんな今の社会と照らし合わせることでより多くこの小説から得られるものがあるのではないだろうか?


 さて、書評というよりほぼ感想文だし短いし文章は下手だしで文句はあると思いますが、何せ暑くて…。あと文章力は気長に成長を期待して置いて下さい(笑)
 いつも迷うのは、1冊だけを詳細に紹介するか、こうして何冊かを軽く紹介するかということ。何冊もまとめてする方が上辺だけをサラッと書けばいいので楽なのは楽なのだが、なんだか自分でも物足りないなと感じてしまう。うーむ、難しい所です。何かご意見・ご感想のほどありましたらコメント欄にてお気軽にどうぞ。それでは、また次の更新でお会いしましょう...!
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綺麗な屍体のお姉さんは好きですか?熊倉隆敏『ネクログ』を読もう!

2011年08月28日
 残暑厳しい中、皆さんいかがお過ごしでしょうか?先日、私も話題のゲリラ豪雨に遭遇致しまして、「何だよ。目的地に辿りつけないじゃん!」とブーたれてたのですが、雨でぐしょぐしょに濡れたセーラー服を着た女子高生5人組がキャーキャー言いながらスカートや靴下を絞ってるのを見たら、もう全てが報われた気がしました。いいですね…、なんかもう透けちゃったりしてて…、フフフ。
 さて、そんな幸せな場面に遭遇するなら夏も悪くないなと思ったので更新しまーす。

・熊倉隆敏『ネクログ』
 アフタヌーンに連載されていた『もっけ』は、民俗学の知識に裏打ちされた日本の妖怪や呪いと、霊媒体質の姉妹の成長物語を時にユーモアを交えて真正面から描いた傑作だったが、今作で熊倉氏が描くのはチャイニーズゾンビ、つまりキョンシーの話である。
 舞台は中国。時代はおそらく19世紀後半。田舎の地主の息子である主人公の宋玉生(ソン・ユーシェン)にはほのかな恋心を抱く憧れのお姐さん薛(シュエ)がいたのだが、家庭の事情により富豪の家に嫁ぐことになってしまう。しかし、婚礼の最中を狙った賊に襲われてシュエは誘拐され、その後行方不明となってしまう。時は流れ、大人になったソンはしがないフリーの物書きとして働いていたが、ある時、行方不明になったはずのシュエと偶然再会する。けれども、シュエは当の昔に死んでおり、胡才良(フー・ツァイリャン)と名乗る道士が操るキョンシーとなっていた。これを哀れに思ったソンは反魂の術でシュエの魂を冥界から呼び寄せる術を身につけるためフーの弟子になることを決意するのだが...、というのが大まかなストーリー。
 もうこれが本当に面白い!というわけで、どこが特に面白かったかを2つ挙げてみよう。どのような漫画なのかが少しでも伝われば幸いです。


1.仙術を使ったバトルが凄い!
仙術とは簡単に言えば中国版魔法みたいなもので、道教の道士が仙人になるための修行の最中に覚えなければいけない様々な術のことである。フジリューの『封神演義』では主に宝具(パオペエ)を使ってバトルをしていたが、『ネクログ』ではもっと、いかにも仙術らしい方法で闘うのである。キョンシーである白杏(パイシン、フーがシュエにつけた名前)も操り人形として闘うのだがこれが物凄く強い。相手が人間なら手刀で首を切断できるくらいのパワーがある。まさにキリングマシーン!そしてフーもかなりの仙術の使い手で(一時期、太上老君に師事していた事もある)、道士の間での闘いはまさに奇奇怪怪なものとなっている。ゴーレムを召喚したり、相手が幾本もの鋭い槍で攻撃してきたら体を泥上にしてスルリと貫かせ、触手で捕縛されたら水になって抜け出す。そういった一連のバトルは、まさに仙術を使った闘いのイメージそのものでカッコいいのだ!
ちなみに・・・
ネクログ_02
普段はこんなに可愛らしいシュエ姐さん(※屍体です)も、いざ戦闘になると・・・
ネクログ_01
敵の首を手刀でザクーッ!

2.様々な思惑の絡んだストーリーに惹き込まれる!
 前述の通り、ソンはシュエのことを不憫に思い反魂の術をフーから学んで、現世にシュエを戻してあげようという思いからフーに師事しているが、フーがなぜソンを弟子にしたのは情にほだされたからではない。実はフーは、冥界からの頼みで、鬼録(生者がいつ死ぬかが書かれている記録帳)の不手際、つまり死ぬべき人間が死んでいないのを隠すために冥吏(道教版死神)の手伝いをしているのだ。フーが担当しているのは主に仙術を悪い事に使っている道士が相手のようだが、フーも善意から手伝っているわけではない。フーの首には首輪が太上老君によりかけられており、本当の自分の力を発揮できない様にされている。この首輪を外したいフーは冥吏の使いっ走りをして冥界の最高神である泰山府君に老君への口添えをして貰おうというわけなのである。なので物書きで情報通でもあるソンは手元に置いておくと便利なのだ。
 そして1巻の最後で出てきた道士の菅橙子(チェン・チョンツ)。フーとは随分昔から知り合いの様で、下界に降りてきたばかりのフーをもてなしてやったりもしたそうで師匠風を吹かせている。しかしチェンはフーが冥吏の使いをやっている事が気に喰わないらしく、太上老君の元にフーを連れ戻そうとする。このチェンがまたお騒がせ者で、フーと道術比べをしたり、ソンをフーの所から追いやろうとしたりと勝手気ままに行動する。しかし根の所ではフーの事を心配しているようだ。

ネクログ_03
童女のような外見だが、彼(彼女)に性別・種族は関係ないので注意だ!
 そして2巻では、師の仇を討つために行脚をしている道士見習いの蘇秀梅(スー・シウメイ)が出てくるのだが、これがまたドジっ子で可愛らしくて健気で、まだまだ腕は半人前の恥ずかしがり屋だが、基本的に困っている人は見捨てておけない善人なので、悪鬼と悪行渦まく『ネクログ』の世界の癒しとなっている。今後彼女の兄弟弟子も出てきそうなのでまだまだ目が離せない人物である。
ネクログ_04
まだまだ修行中だが、雷を落とす術を使う。ちなみに語尾は”だっちゃ”ではない。

 というわけで、おおまかに2つの『ネクログ』の面白い所を紹介してみたが、いかがだったろうか?この漫画は本当にお薦め!まだ2巻しか出ていないので、謎の部分も多いが『もっけ』に引き続き、とても深い知識を元に漫画を描かれているのがヒシヒシと伝わってくる良い漫画なので、ゾンビファンは言わずもがな、ひいてはホラーファンのみならず、みなさん是非読みましょう(でもグロテスクな描写があるので、そういうのが心底苦手な方は避けた方が賢明でしょう。少し嫌い程度なら大丈夫です、たぶん)!
 ちなみに2巻の巻末オマケでは今作をより楽しく読むための志怪(中国の六朝時代の小説)が紹介されていて、大変助かる。是非何冊かは読んでみたい。



 それではまた次の記事で...!
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