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最近読んだ本の感想 vol.6

2011年08月13日
どうも、お久しぶりです。いやー、暑いから更新サボってました!すいません。あと、私生活で何かと忙しかったのもあるんですけどね。とにかく、リハビリも兼ねて久しぶりに最近読んだ本をちょっとばかしの感想付きで紹介したいと思います。

・大森望責任編集『NOVA5』

 もはやSF者の中では定番の短編発表媒体となった感があるSFアンソロジーの5巻目である。今回参加されている作家を羅列すると東浩紀/伊坂幸太郎/石持浅海/上田早夕里/須賀しのぶ/図子慧/友成純一/宮内悠介(五十音順/敬称略)と"ベストSF2010"で見事1位に輝いた上田さんから、なにかと行動がいい意味でも悪い意味でも話題となっている東さん、デビューしたての新人から半分行方不明の作家まで相変わらずバラエティに富んだ作家陣である。さすが大森望さん。

 さて個別の作品に移ると、上田早夕里「ナイト・ブルーの記録」は海洋SF。海洋有人探査機でキャリアを積んだ霧嶋恭吾が、無人海洋探査機と非浸食型神経接続装置を通じてワイアードし探査/操作を行う事で、無人探査機が将来自分で問題を解決することが出来るようになるための、経験値を上げるためのオペレータとして抜擢されるが、操作を続けるうちに霧嶋の精神に異常が発生するようになる…、といったストーリー。人間と機械の界面が浸食され新人類とでもいうべき人間が生まれるというのは、士朗正宗『攻殻機動隊』で草薙素子がネットワークから生まれた自称生命体である通称"人形使い"と融合することで人類の進化の階段を1段上がったようにポストヒューマンSFともとらえられるが、今作はそこまでは描かずにその一段上がる寸前の、人類の前日譚であると私は判断した。短編集『魚舟・獣舟』を読んだ人なら分かると思うが上田さんの文章はどこかホラーめいた所を感じさせる(テーマその物がストレートにホラーの場合もある)。今作も人類の夜明けだ!と感じさせるような明るい側面はあまり感じられず、その後の人類の前途多難さを臭わす、深海の暗さを心に落すような陰がある。上田さんの魅力が溢れている作品だ。須賀しのぶ「凍て蝶」は、ある時街で父が描いた山の絵を売っていたら、いたくその絵を気に行ったヨールと名乗る見た目はパッとしない女性と知り合ったことで非日常的な世界に次第に巻き込まれていく主人公の1人称で語られるファンタジー。街角でたまたま出会った女性に運命を感じ、その女性のために一生懸命尽くす主人公の愛あふれる行動は女性にはキュンと来るのではないだろうか。時に衝突あり、別れあり、和解ありで、SF色は薄いがロマンチック・ファンタジーとして楽しめる一作。友成純一「アサムラール バリに死す」は、題名からして『雨の朝巴里に死す』のもじりという事から想像がつくかと思うが、著者の実体験を交えて書かれたコメディチックな作品。作家・友成純一は作家人生にほぼ見切りをつけインドネシアで奔放な暮らしを送っていたが、ある時から長期間連絡が取れなくなった日本の編集者が怪しく思いインドネシアはバリ島を訪れてみると、そこで友成ことジュニチはアサムラールという現地の風土病に罹り死亡していた事を知る。その顛末はラップトップに残された原稿に残されていた…という物語。大森さんの解説によるとほぼ実体験であると言う事だが、まったくもって羨ましいけしからん生活をバリ島で送っている著者のこの作品は、東南アジアのエネルギッシュさとどこか日本人から見ると奇異にみえる生活様式が垣間見える怪作。自らを主人公に仕立て自叙伝めいた小説は数あれど、ここまで赤裸々にお下品さを開陳し、自分を笑えるネタに昇華させているものはそうそう無いんではなかろうか?しかし終盤あたりは急に真面目になって文明社会を批判してみたり、ホラー小説ばりの展開が待ち受けていたりと全く侮れない。私もバリ島で朝からビールで酔っ払い夜はチェウェとニャンニャンしたいものです。宮内悠介「スペース金融道」は「盤上の夜」で第1回創元SF新人賞の最終選考に残った宮内さんの書くスペース貸金取り立てSF。といってもタイトルから感じられるコメディ要素は主人公コンビの会話や、貸金の取り立て方法などに少々垣間見えるだけで本筋は大真面目なハードSF。アンドロイドが公民権を得て、人類が太陽系を飛び出して幾星霜。太陽系外の惑星、通称"二番街"で新星金融の取り立て屋として働いている有能なユーセフと平凡な"僕"の2人は、会社のモットーである<宇宙だろうと深海だろうと、核融合炉内だろうと零下百九十度の惑星だろうと取り立てる>というウシジマ社長が頷くのが見える厳しいものに則って行動するものだから危険が絶えない。ある時社内報で、アンドロイドが自らの体を捨て他アンドロイドの体を乗っ取ることで取り立てから逃げているという注意喚起を目にした2人は、その事件の詳細を調べていくうちに大変な事実に気付くことになる…、といったストーリー。これがデビューして4作目の作品かと驚くほどこれが読ませる。程よく散りばめられた奇想天外な出来事は可笑しいし、読者の投影としての等身大の主人公"僕"を出すことで世界設定の説明がテンポよくなされていて読んでいて難解では無い、金融工学と量子力学を合体させた量子金融工学というトンデモ理論をさも当たり前かのように語ったりアンドロイドの3原則を掲げそれを物語の中心に据えるところにハードSFさも感じた。やはり複雑な人生を歩んできた経験が活かされているのだろうか?今後も目が離せない作家さんの1人である。

 というわけで、掲載されている作品の半分、4作を紹介した。総括としては、今作『NOVA5』はあまりSFというジャンルの裾野を広げ過ぎてもいないし、序文で書かれているように今巻はほぼ全篇が50ページ前後というNOVAにしては珍しい構成だったしで、個人的にはちょうど良かった、ピッタリはまったかなと思う。あんまり長すぎてもアンソロジーを読んでる気分になりませんしね。



・ジェイムズ・エルロイ『獣どもの街』

 ミステリ界隈ではお馴染みらしく名前だけは知っていたジェイムズ・エルロイという作家。今回の『獣どもの街』が私にとって初めてのエルロイ作品だった。まず最初に、なぜ本作を購入するかに至ったところから語らせて欲しい。

 ブログでは漫画と小説の話しかしていないが、実は映画やゲームも好きだ。最近購入したゲームの中で面白かったのは『アリスマッドネスリターンズ』と『L.A.ノワール』の2つ。前者『アリス~』は正にマッドネスが示す通り、アリスの世界がグロテスクに、狂気溢れる世界として描かれたアクションゲームでアリスは可愛いし、世界は頭がおかしくなるような歪んだ世界だしで、とても満足したわけだが、ここでは『アリス~』の話がしたいのではない。そう、『L.A.ノワール』なのである。

 ノワール(Noir)とはフランス語で"黒・暗黒"を意味する単語であり、転じて暗黒社会を描いた作品の形容に用いられるようになった。『L.A.ノワール』、つまりL.A.の暗黒社会を描いたこのゲームはロックスターとチーム・ボンダイが作った作品で、これが強烈に面白い!簡単にゲーム内容を説明すると、DSの人気ゲームシリーズ『逆転裁判』に似ていて、プレイヤーは検事で無く刑事となって容疑者を尋問したりするのだが、これが舞台を1940年代後半のロサンジェルスに移すとどうなるか?暴力にドラッグ、差別・・・。煌びやかなハリウッドを擁するL.A.という街の裏側がこれでもかというほどリアルに描かれており、完全にハマった。というか、このゲーム、サスペンス映画好きやビザール殺人に興味があったりする人なら間違いなくハマる。そして、話はこのゲームが発売される前に戻る。発売前、ツイッターのミステリクラスタの間でも、話題となったこの作品。何故話題になっていたかというと、"ブラック・ダリア事件"を扱っているからエルロイファンは見逃せない!というようなものであった。最初は「ふ~ん、その事件を扱った小説があるのね。」くらいに思っていたのだが、ゲームをやり終って、これはその作者の本を読まねば!となった訳である。ではなぜ、<ブラック・ダリア>シリーズでは無くこの『獣たちの街』を買ったかというと、一応保険をかけた訳である。「この買った本がもし面白くなかったら?」これは読書好きの人なら思った事があるはずだ。だから連作ではなく1冊完結で表紙もカッコいいこの作品を選んだ。結果としてどうだったかというと・・・、メチャクチャ面白かった!なんだこれ?この文章、最高にクールで狂ってるじゃないか!しかも意図していなかったが舞台はL.A.!主人公は刑事!これはもはや運命を感じざるを得なかった。

 というわけで、私とエルロイとの出会いを語った所で内容に触れていきたい。『獣どもの街』は「ハリウッドのファック小屋」、「押しこみ強姦魔」、「ジャングルタウンのジハード」の3篇からなり立っており、主人公とヒロイン・舞台は3篇共に共通であるが、年代が違う。「ハリウッドのファック小屋」が1983年、「押しこみ強姦魔」が2004年、「ジャングルタウンのジハード」が2005年のL.A.が舞台となっている。

 主人公は犀をこよなく愛し犀ファッションに身を包むリック・ジェンソン。まずここからして犀の象徴でもある犀の角が怒張した陰茎を連想させることからこの刑事がどのような人物かは分かるかと思う。そしてヒロインはドナ・ドナヒュー。ダジャレみたいな名前だがこの作品では頭韻が異常なほど繰り返されているのでその一環だと思われる。ドナはハリケーンのような激しさを身に纏ったアメリカンセックスカルチャーの象徴でもあるPLAYBOYの表紙を飾りそうな、フェロモン溢れる女性だ。この2人は、生涯で3度だけしかファックしない。2人は愛し合っていたが、男の後ろについてくるようなタマではないドナと、女に人生を縛られるような生き方を選べないリックとの間の愛は、愛の形は人それぞれなのでそれでいいのだ。

 文章は先ほど書いたように頭韻がこれでもかというほど踏まれているのと、短い文でフラッシュの様にパパパッと情景を描写してとてもリズムがいいが、ここは好みが分かれるところであろう。しかし、万人の一致するところは、語彙の豊富さと最高にゲスで下品で熱に浮かされたような文章であることだ。これが最高にイカしている。暴力小説、ノワール小説を愛する心を持つ諸氏なら分かってくれると思うのだが、こういう文章というのは少しセンスが無いだけでただのカスに成り下がる。しかしエルロイの言語センスが絶妙(なのとおそらく訳者の人が頑張ったおかげ)でこの小説を最高にしている。

 出てくる犯罪はビザール犯罪が多く犯罪者は完全にイカれている。犯罪者/被害者共にその死に方は無残だ。ゲイと有色人種は明らかに差別され抑圧されている。おそらくこの小説の背景からアメリカの抱える根深い人種差別や、いなくならない汚職警官に著者の生い立ちなどに思いを巡らせる事も出来るのだろうが、そこを無理に意識して読むのではなく、私としてはこの文章の流れに身を任せてみて欲しい。脳に入ってくる情報をそのままスパークさせて欲しい。貧弱な私の言語表現では、エルロイを語るに足らないが、例えばデヴィッド・フィンチャーやクエンティン・タランティーノの映画が好きだったら読んでみて損はしないと思う。音楽でいえばスラッシュメタル。SLAYERな感じがした。

 以上、つらつらと書いてみたが、伝えきれないこの感覚がもどかしい!とりあえずちょっとでも興味を持ってみた人は巻末の杉江松恋さんの解説を読んで欲しい。誰にも負けないとんがった知性と感性が無くても(あるにこしたことはないが)アドレナリン全開で読めるはずだ。



 えー、というわけで、最近読んだ中でも特にハマったものを2冊しょうかいしてみましたが、いかがだったでしょうか?本当は『年間日本SF傑作選 結晶銀河』についても触れたかったのだが、集中力が切れてしまった(笑)では、またお会いしましょう!
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時は大海賊時代!神林長平『敵は海賊・海賊版』の書評

2011年06月20日
 いやはやすっきりしない天候が続いて気分も晴れませんなぁ。外に出かけたくても雨が降ってるとやる気も半減な管理人ですが、みなさんいかがおすごしでしょうか?
 というわけで今回も「お外に出られなければ、家で本を読めばいいじゃない」というテーゼに従ってレビューを書いていきますか・・・。

・神林長平『敵は海賊・海賊版』

 物語の始まりは火星の無法地帯に店を構えるバー<軍神>から始まる。<軍神>のマスターであるカルマは、自身も過去海賊だったが今では足を洗い、<軍神>を訪れるならず者・無法者どもの自慢話を聞くことを何よりの楽しみにしている。
 そんな中でも一番楽しみにしている客がこの物語のダークサイドの主人公である匋冥(ヨウメイ)・シャローム・ツザッキィだ。彼はこの世界で最も畏れられている海賊で、匋冥は”生まれながらの悪人”で宇宙航海が一般的となりとっくに神を畏れる者などいなくなった未来で”その邪悪さゆえに神の存在をよみがえらすような力がある”と評されるほどの極悪人であることが示される。彼も自らの信条を”おれに命令できるのはおれだけだ。おれを支配しようとする力には、手段を選ばず対抗し、必ず打ち砕いてやる”と大言してはばからない。
 しかしそんな彼の奇異な点をカルマは2つ挙げる。1つ目は、到底似合わない少女趣味の白いクラーラという名の”ぬいぐるみの猫を思わせる”猫型の有機ロボットを連れている事。この猫は匋冥曰く彼の良心そのものが具現化したものらしい。2つ目は、彼の愛銃である冷凍銃(フリーザー)の威力の桁違いの強さである。この銃はエネルギーを放出するのではなく対象のエネルギーを吸い取り別の宇宙へ放出するというのだ。そして匋冥はカルマにこの2つをどこでどのように手に入れたのかを語るのであった...。
 
 上記のあらすじは小説の冒頭、たった14ページ分ほどである。しかし、カルマというバーで色々な話を聴いてきた、つまり大概の悪事の話は聴き飽きたともいえる存在に匋冥を語らせることによって、この冒頭のたった十数ページで読者は匋冥の悪の魅力に惹きつけられ、どのような結果で白い猫とフリーザーを手に入れたのかを知りたくてたまらなくなるのは必至なのだ。そう断言したくなるほど、私は、匋冥の紙面からあふれ出る生へのエネルギーのようなものを感じたのである。

 海賊が出てきたなら、それを取り締まる警察機構があるのは当然のことである。この作品でも、過去に両親と弟とを海賊に殺され、愛する女性が海賊だったがために撃ち殺さなければならなかった悲劇の過去を持つ海賊課の刑事ラテルと、食いしん坊で愚痴っぽい猫型宇宙人アポロアプロのコンビが登場する。
 このコンビは実にちぐはぐでお互いに嫌味を言ってばかりいるがその実、互いを信頼し合っている敏腕デカで、その腕の良さは海賊に知れ渡っており匋冥も一目置く存在である。特にアポロアプロは実にユニークで、気ままな猫そのもの。けれどもいざ戦闘となるとその強さは凄まじく、近接挌闘では鋭い爪と牙を用いて野性的に敵を殺したりするギャップが素晴らしい。

 そして面子の揃った物語はランサス星系の主星であるフィラール星の王女失踪事件を巡って進んでいく。匋冥に直接王女を探してくれるように頼みにきた王女の侍女シャルファイン・シャルファフィアと匋冥、その事件を捜査すべく海賊課として捜査を開始するラウルとアポロの2組は、意図せずに神と悪魔との代理戦争を担わされることになり、超空間航法を行うと平行宇宙に迷い込んでしまうのであった。その世界でも同じように王女失踪事件が起こっており、同じメンバーが行動を起こしているので、実質1つの宇宙で4組のグループが動いていることになるのだが、難解であったり「双子のトリック」を使うといったようなことは起こらないので、聞いただけではこんがらがるかもしれない世界も易々と受け入れることが出来るだろう。
 そして繰り広げられる匋冥と海賊課の戦いに、フィラール星の内政の不安定さも絡んで一気に物語は結末へと駆けこんでいく。何物にも支配される事を嫌った匋冥が最後に取った驚きの行動とは?海賊科の刑事は王女誘拐事件を解決することが出来るのか?白い猫と冷凍銃はどんな経緯で手に入れられたのか?
是非読んで結末を確かめて欲しい。
 
 神林長平さんの作品というと人間の本質に迫った火星三部作や言語SFともいえる少々難解な小説で知られているかもしれないが、この『敵は海賊・海賊版』は純粋にエンターテインメント小説なので苦手意識がある人でもすんなり読めるはずだ。


 というわけで、今回はあらすじ解説では無くキャラの魅力に焦点を当てなるべく自分の意見を入れてみたのですがどうでしたでしょうか?ご意見・感想お待ちしております!
 ではまた、次の記事で...!


2012年5月17日
追記:えー、恥ずかしながら猫型宇宙人アプロをアポロと表記しておりました。恥ずかしい!そして指摘して頂いたコメント欄の通りすがりの御仁、ご指摘ありがとうございます!
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日本SF短編の最前線、大森望責任編集『NOVA4』の感想

2011年06月01日
 さてついに6月を迎えてしまいましたね・・・。本日6月1日は関西や東日本では土砂降りの雨だったり肌寒かったりと、季節を逆戻りしたような天候だったらしいですが、ここ福岡では半袖のT-シャツ1枚でも十分なほど暑かったです。とまぁ、時節の挨拶もそこそこにして、今日もボチボチいってみましょう!

・大森望責任編集『NOVA4』(河出文庫)

 毎回がらりと違う顔ぶれで、がらりと印象の違うアンソロジーをお届けする━━それが<<NOVA>>シリーズの編集方針です。この『NOVA4』は、七色の変化球を主体にした変幻自在の1冊。伝奇、ファンタジー、ホラー、ミステリーなど、バラエティ豊かな9編をごゆるりとお楽しみください。
  ━━大森望 (見返しより引用)


 SFアンソロジー『NOVA』シリーズも今巻で通算4冊目である。1巻から大森望色ともいえる特色あふれる短編を収録しているこのシリーズには、個人的に大森望さんのお薦めに絶大な信頼を置いている私にとって毎度毎度まさに御馳走である。今巻の収録作家を掲載順に羅列すると、京極夏彦・北野勇作・斉藤直子・森田季節・森深紅・林譲治・竹本健治・最果タヒ・山田正紀の9人である。ホラー界の巨匠にライトノベルの新進気鋭、詩人にSF界の重鎮まで物凄くジャンルの幅の広い作家陣である。人脈が広いのか人望が厚いのか(どちらもだろうが)、大森さんの手腕には驚嘆するばかりである。

 今回は短編集なので、個人的に気にいった作品をいくつかピックアップして紹介していきたいと思う。


・北野勇作「社員食堂の恐怖」
 『NOVA1』に収録されていた「社員たち」に続く、社員シリーズ(?)である。唐突に、出口のシャッターが開かなくなり、あらゆる外部との連絡/関係が途絶えてしまった、とある会社の社屋。突拍子もないことが好きで”肝の据わった人材が好き”というワンマン社長の仕業かと途方にくれる社員たちだったが、一旦考えが落ち着き、社長に監視されてるかもしれないから堂々と振舞おうと腹を据えると、夕時なので空腹になってきた。社が誇る”万能自動調理器”が置かれている社員食堂へみんなして赴き、それぞれが食事を平和に済ますのであった。あのおぞましい事件が起こるまでは・・・、といったストーリー。
 やはり北野さんのこういったSF設定を生かし、ギャグとブラックユーモアを交えた短編は本当に好きだ。読者を小説の世界に引き込んでオチまで全く引き離さない文章は、著者の落語好きが、良い意味で、モロに反映しているのだろうなぁ。オチは凄く思索的です(笑)

・森田季節「赤い森」
 先日、ハヤカワJAから『不動カリンは一切動ぜず』を刊行し、SFマガジン7月号でも”2010年代を担う次世代型作家”として紹介されている著者の考古学SF。日本史研究の修士課程に所属する主人公・西野の研究室に「自分の持ち山(奈良と和歌山の県境付近)から壁画のある古墳が出た。調査に来てくれ」という電話がかかってきた。修士論文に行き詰まってるようだし気晴らししてきてはどうかと担当教授に薦められたので、西野は特に期待もせずフィールドワークに出掛ける。そこで西野が見つけたのは本来なら圧倒的多数が九州地方にある装飾古墳であった。すわ!新発見か!とはやる気持ちを抑え古墳内を調査すると、どうも壁画がおかしい。古墳が造られた時代には見られないはずのモチーフが描かれているのである・・・、といったストーリー。
 著者の来歴が活かされている考古学・ミーツ・SFという設定が本当に楽しめた一作だった。ひょうきんとも言える展開にはウキウキさせられたし、結末はどっちともとれるが、個人的には夢がある方を取りたいです(笑)

・林譲治「警視庁吸血犯罪捜査班」
 林譲治さんといえば、「AADDシリーズ」をはじめ、どちらかというとハードSFで知られていると思うが、今作はなんとSFミステリに挑戦である。先進国を中心にIDタグが導入されるようになった近未来、世界規模で身分を詐称している謎の人々を見つけることになった。彼らはなんと吸血鬼で、身分を偽り社会に潜んでいたのであった。様々な排斥運動や互いの間に確執があったが、研究が進むにつれ彼らが高い技術力を生理学的に有していることが判明した。これに目をつけたのが労働力の欠如から国際競争力を失くした日本であった。しかし受け入れに関しては根強い国民の反発があったので、警視庁に吸血鬼専門の捜査機関、通称・吸血犯罪捜査班を設けるのであった・・・、というのが大筋の世界観。
 ここまでの設定も、さすがとも言うべき説得力を持って、帯に短くもなくたすきに長くもないちょうどいい塩梅で緻密に書かれている。この冗長にならないギリギリのところをいつも私のような馬鹿にも分かるように書いてくれるので林さんは大好きな作家さんである。
 ストーリーはこの世界で殺人事件が起こったのを吸血捜査班がなんのかんのあって解決するという風に進んでいく。ミステリーはあまり読んだことが無いので、参考にならないかもしれないが、「この後、どうなるんだろう?」とか「はは~ん、さてはこいつが犯人だな?」と考えながら読むことが出来た。


 さて、全9編のうち、特に気に入った3作を紹介したが、いかがでしたでしょうか?他の掲載作に、Twitterでの『NOVA4』の感想の中で一番人気が高く、長編化も出来る設定をふんだんに詰め込んだという山田正紀さんの「バッドランド」、退廃的エロスに身を焦がす王妃を描いた竹本健治さんの「瑠璃と紅玉の女王」などなど、どれも面白い作品ばかりですよ!
 個人的に今後に期待する作品は、ミリタリSFとバチガルピなみのポストヒューマンSFかなぁ。



 というわけで、今回の記事はここまで!何かご意見等ございましたら、ツイッターのリプライでもコメント欄にでもお気軽に書きこんで下さいね!それではまた次の記事で...!
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宇宙怪獣大決戦!?小林泰三『天獄と地国』の感想

2011年05月31日
 さて5月も終わり6月になってしまいましたね。年始に立てた目標は達成できましたでしょうか?私はできていません!もう今年も残り半分かと思うと、なんだか月日の流れる速さにビックリする限りでございます。というわけで、今回も行ってみましょう!

・小林泰三『天獄と地国』(ハヤカワ文庫)

頭上に地面、足元に星空が広がる世界。人々は僅かな資源を分け合い村に暮らしていた。村に住めないものたちは「空賊」となり村々から資源を掠め取るか、空賊の取りこぼしを目当てにさまよう「落穂拾い」になるしかない。世界の果てにもっと人間の暮らしやすい別天地があると確信した、落穂拾い四人組のリーダー・カムロギは、多くの敵と生き残りを賭けた戦いを繰り返し、楽園をめざす旅を続ける。



 小林泰三さんの久々の長編小説である。短編集『海を見る人』に収録されていた同名作品の長編化である。読み始めたあなたはまずトンデモな設定に驚かされるだろう。上記の引用を読んでもらえれば分かるが、この世界ではなんと重力が逆さまに働いているのである。この事に関する描写が細かく、まるでその世界が本当にあるかと錯覚させるかのように書かれているので、頭の中の常識が「あれ?重力ってなんだっけ?」と狂ってしまいそうになること必須である。またSF作品でみせる小林さんの深い科学知識も手伝って、この小説の世界に感じる"リアルさ"は真に迫っている。

 そんな狂った世界で、空賊が略奪し終ったあとの村に赴き、残った生活必需品や電子部品などを盗むことで命をつなげているカムロギ率いる落穂拾い4人組。無論いつもギリギリの所で生きているので贅沢などは出来ない。その中の一人、カリティは”地国”という存在を信じていた。”地国”とはこの世のどこかにあるという重力が反対に働く所、つまり鉛直下向きに重力が働く場所のことだ。しかしそんな主張をするカリティを残りの3人はおとぎ話を信じる女だと馬鹿にしていた。しかし、ある時カリティが宇宙船を着陸させた場所の岩盤が崩落する事故が起こってカリティは”天獄”、つまり空へと落ちていってしまう。その際彼女は”地国”の存在の根拠として主張していた巨大生物を崩落した岩盤に最後に発見する。この発見に驚いた一行であったが、それぞれの宇宙船が限界に達し、空賊も迫っていたため、それを調べるために巨大生物らしき物体へと単身カムロギが無理矢理乗り込む。するとその巨大生物は人をその中に取り込み操縦者とすることで動く生物型宇宙船であることが判明した!

 この生物型宇宙船(カムロギがアマツミカボシと名づける)に乗りこむことで難なく空賊を退けることが出来た一行は、カリティの説が正しかったことを確信し、”地国”へと赴く長い旅をつづけるのだが、そうやすやすと物語が片付かないのが小林さんの小説である。この世界には3つの国(といってもたかが知れているが・・・)があり、その国それぞれがそれぞれの怪物を所有していたのである。4体目の怪物の出現の報を聞いたそれぞれの首長はパワーバランスが崩れる事を恐れ、アマツミカボシをそれぞれが所有する怪物を持って退治しようとする。そう、これからがこの小説最大の見せ場、超巨大宇宙怪物大決戦が始まるのである!小林さんはウルトラマンが大層お好きだと聞いたが、もう取っ組み合いからブラズマカッターに分身まで、まさにやりたい放題の大決戦が繰り広げられるのである。こう書くとコメディ色が強いのかなと勘違いされるかもしれないが、その対決も「宇宙で戦う怪獣がいたら絶対こんな感じなんだろうな~」と納得できる説得力がある文章で冷静にSFしているのでご安心を(笑)

 これ以上、あらすじを語るとネタバレになってしまうので控えるが、やはり小林泰三さんの作品は面白いなぁ。冷徹でグロテスクな描写、幸せとは程遠い環境の中で生き抜く人々に訪れるあっと驚く結末。この魅力を伝えるには私の語彙/表現力では無理なのが本当に悔しい!

 ホラー作品でしか著者を知らなかった人、先日の『世にも奇妙な物語』で放映された「ドッキリチューブ」の原作者としてチラッとだけ聞いたことのある人、そういった人たちへの入門書としては少しレベルが高いかもしれないが、センスオブワンダーが存分に味わえる作品である事は保証します!


 というわけで、今回の記事はこのあたりで!また次の記事でお会いしましょう...!
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今度の亀は饒舌?!北野勇作『かめ探偵K』の感想

2011年05月30日
 梅雨入りの前からはっきりとしない天気が続きそのままグダグダと関東の方では梅雨入りをしたそうですね。昔は雨の日が好きだったのですが、最近はちょっと雲が出てるくらいの晴れの日が好きな管理人・たまきちでございます。時が過ぎるのは早く、もう5月も終わりかと思うと嫌になってきますが、ボチボチ生きていきたいと思います。といった所で、今回も感想文に毛が生えた程度のレビューを書きたいと思います。

・北野勇作『かめ探偵K』(メディアワークス文庫)

~どこか懐かしい不思議なものがたり~
街はずれに、寂れた博物館が建っていました。何の変哲もない建物ですが、その屋根裏部屋には、亀が住んでいるのです。部屋の扉には、クレヨンでこう書かれています。「かめ探偵K」。
かめ探偵Kの仕事は3つ。1つめは「甲羅干し」。2つめは「かめ体操」。そして3つめが「謎解き」。依頼人が持ち込んでくる奇想天外な謎を、かめ探偵Kは甲羅の中で推理していきます。
どこか懐かしい、でも近未来の小さな小さなおはなし。はじまり、はじまり。



 関西SF作家の中でも特に幻想的というか寝ている時見る夢(時にデヴィッド・リンチのような悪夢的であるが・・・)のような世界を書かれる北野さんの新作小説である。メディアワークス文庫から出るのは『メイド・ロード・リロード』(AA)以来だが、まさかライトノベルのレーベルから2冊も出版されるとは、ファンとして何とも嬉しい限りである。

 今はもう失われてしまった”旧世界”の雰囲気がどのようなものだったかを展示する「旧世界座」という建物は、普段、夫妻が管理しているのだけれど、世界一周旅行に出かけることになったので娘のナツミに管理が回ってきた。しかし静かな湖畔の森の影より閑古鳥が鳴いている「旧世界座」なので、生活費のためにと両親が見つけてきた店子、それがかめ探偵Kなのであった!そのかめ探偵Kに加えて、ある日突然押し掛けてきた、こまっしゃくれた少女・フユの3人で物語は進んでいきます。ちなみに、書くまでもないと思いますが、かめ探偵といっても亀のコスプレをした人間ではありません。大人の人間くらいのサイズのれっきとした亀です。・・・なにか、おかしいことでも?

 小説の形態は、「新世界通信」というこの世界で発行されている新聞の「面白記事」の欄に掲載料目当てで投稿されるナツミのかめ探偵Kについての観察日記兼エッセイという体を取っています。ナツミ視点で進む物語は、かめ探偵Kの不思議な生態や、ヘンテコな事件の依頼をズバッと解決するかめ探偵Kの様子、事件に巻き込まれたナツミを名推理で救ってくれたかめ探偵Kのことなどなどを、非常に優しさと笑いあふれる文章をもって書かれていて、読んでいる最中、「よし今日はここまでにしよう!」と決断するのが難しく感じるほど不思議な牽引力を持っています。ちなみに推理パートを解くにはかなり柔軟な発想を要求されるので、ハードミステリではありませんが、そっち方面を期待されている方にも楽しめるかな?

 世界観は、北野さんが得意とするディストピアのようなユートピアのような世界━過去に”旧世界”と今では呼ばれる世界があったが科学の発展とそれを扱う人間のモラルの無さから滅びてしまい、いまでは”おわん湾”にしずんでいらしい━をノスタルジックに所詮人間ってこんなもんでしょ?というブラックユーモアを交えて書かれているように私は感じたけれど、量子論SF/スペキュレイティブ・フィクションとはっきりジャンル分けするのではなく、「北野勇作の!不思議な世界!」で私は良いと思います。

 さて、最後になりますが、1つあまり関係ない事を。『かめくん』、『カメリ』、『どろんころんど』に出てきた亀は鼻息だけでしか会話しませんでしたが、今度のかめ探偵Kは、凄く饒舌です!なにせ、探偵ですからね!北野さんによると、北野さんの著書の中で亀が喋ったのは今回が初めてだそうな。

 というわけで、北野作品に触れたこと無い人でも全く問題なく、肩ひじ張らずに難しい事をなーにも考えずに読める良著ですので、この機会に読まれてみてはいかがでしょうか?


 さて、今回はこれぐらいで失礼します。何かありましたら、コメント/ツイッターのリプライにどうぞお気兼ねなくお申し付けください。それでは、また次の記事で...!
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