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緻密に構成されたプロットにシビれる!小林泰三『大きな森の小さな密室』を読もう!

2011年12月06日
 えー、みなさん、大変お久しぶりです。はじめましての方ははじめまして。ほぼ一月半ぶりの更新となります。「それって、レビューサイトとしてどうなの?ねぇ?」という叱咤の言葉が頭の中から聴こえてはいたのですが、なにせPS3のゲーム『Dark Souls』が面白くて面白くて…。
やっぱり一日の中に更新するという癖をつけないと一旦億劫になるとより億劫になりますね。と、毎度毎度反省の言葉から始まりますが、今日も楽しくいってみましょー。

・小林泰三『大きな森の小さな密室』

 2008年に出版された『モザイク事件帖』を改題して文庫版になったこの作品。本作品に収録されている7作品はそれぞれミステリの題材としてよくあるジャンルが1つずつ割り振られ、サブタイトルとしてあえて記されている。例えば、表題作「大きな森の小さな密室」は”犯人当て”、「氷橋」は”倒叙ミステリ”、「更新世の殺人」は”バカミス”、といった風だ。つまり、どのようなジャンルかを最初からネタばらししているわけだが、それで面白さが減じることは無い。むしろ著者自らがハードルを上げ、読者の期待を煽っていると感じた。そして見事に、少なくとも私の期待を、悠々とクリアしていった。

 実は更新するにしても1つのエントリで感想/書評するのではなく、拙ブログの”最近読んだ本”シリーズの中に割り振ろうかと最初は思っていたのだが、収録作「正直者の逆説」を読んで考えを変えた。どうして考えを変えたかは後述するとして、まずは作品ごとに簡単なあらすじと感想/書評を書いていきたいと思う。


・「大きな森の小さな密室」
 表題作の作品。この作品は”犯人当て”が割り振られている。
 蓮井蓮治という男が屋敷で死体となって発見される。屋敷は周囲を森で囲まれ、最寄りのバス停からも1時間近く歩かなくてはならない辺鄙な所にあるので部外者が立ち入る隙は無い。そして蓮井は密室で殺人されていた。ということは、その屋敷に訪れていた互いに関係はないけれども、各人が蓮井に対して何らかのトラブル・悪印象を抱えている男女6人が容疑者である。ではいったい誰が犯人なのか?それを当ててみよう!というのが本短編の趣旨である。
 一読目は”解決篇”が始まるまで犯人が分からなかったが、もう一度注意深く読むと犯人がおのずと明らかになる描写が仕込まれているのに気付き、普段推理小説を読まない私でもなんとか犯人を当てることが出来た。ゲーム感覚で気軽に読め、また真相を隠すためにゴチャゴチャと疑わしい事実を撒き散らしていない所に好感が持てた。


・「氷橋」
 この短編には”倒叙ミステリ”というジャンルが割り振られている。”倒叙”ってなんだろう?と思い調べてみると「ミステリで最初に犯人が明かされ、主に犯人の視点で物語が展開されていくタイプのもの。アリバイ崩し。」とあった。
 まさにその通り、編集者である犯人・乙田三郎太が作家であり不倫関係にあった二ノ宮里香美を殺人する場面から物語は始まる。彼は入念に実験を重ねた氷を用いたトリックで里香美を殺害し、自身のアリバイを確固たるものとするのだが、殺人の翌日、弁護士の西条源治なる人物が乙田の元を訪ねてくる。彼は里香美の夫に雇われた弁護士で、里香美の夫は偶然に死体から推定された殺人時刻に里香美が殺害された現場で目撃されたために警察から重要参考人として注視されていたのである。この弁護士がなんとものらりくらりというかべっとりとした質問の仕方で徐々に乙田を弱らせていき、最後には犯人でしか知りえない情報を警察の前で吐露させ、乙田は逮捕される。
 この探偵まがいの弁護士西条がとてもいいキャラ設定で、いやらしくしかし着実に論理を積み上げ、誘導尋問していくストーリーが魅力的な作品だった。


・「自らの伝言」
 この作品は”安楽椅子探偵”もの、つまり現場を訪れること無く関係者からの証言を聞いて犯人を推理するタイプの短編である。また、タイトルを読めば勘の良い人は有名なニセ科学である”水からの伝言”のもじりであることに気がつくだろう(ちなみに私は最後まで気が付かなかった)。
 郊外にあるコンビニで働く睦月早苗は、常連の客である長柄宮穂子と客足も多くない事もあってその日も無駄話に興じていた。穂子の彼氏は秋葉猛士といい、彼は”水からの伝言”、水の潜在能力を研究する超地球サイエンス研究所という所で研究員をしている。穂子は最近猛士と連絡が付かないこと、また同研究所に勤める荻島貴子の彼氏・山城に貴子と浮気していると勘違いされて付きまとわれているので心配だといった話を早苗ととりとめもなく話していたのだが、もう1人のコンビニ店員新藤礼都に一蹴される。曰く、「わたし、馬鹿には我慢できないの。苛つくから、他所で話してくれない?」と。あわや取っ組み合いの喧嘩になりそうな所を早苗が収め、穂子に猛士のことがそんなに心配ならその研究所に直接行ってみれば?とアドバイスする。
 そして、数時間後血相を変えて穂子がコンビニに飛び込んできて猛士が低温室で死亡しており、手には”ナホこ あのおんなはキケンだ”と書かれた紙を握りしめていたことをどうにかこうにか伝える。その時、話を聞いていた礼都が辛辣に話し始めたのだが、それは犯人を突き詰めていたからだった、というストーリー。
 礼都の語り口が有無を言わさない完ぺきな論理によってなされているところと、クールな美人だろうなという私の勝手な妄想とが頭の中で結びつけられたので礼都がいちいち格好良すぎて惚れそうになった。また、”水からの伝言”などという馬鹿げた迷信を頭から疑わずに信奉する輩への皮肉を込めた作品でもあろう。


・「更新世の殺人」
 この作品には、”バカミス”という愛のこもった罵倒のジャンルが割り当てられている。
 解決した事件を世に公表すれば、たちまち国家が転覆したり最終戦争が起こってしまうような難事件にしか興味を示さない探偵Σ。そんな彼の元に発掘現場の更新世の地層からあたかも昨日殺されたがごとき新鮮な死体が出てきた、という難事件(笑)が舞い込んでくる。更新世の地層から出たからには更新世の死体に違いないという常識をブチ破る探偵Σの活躍から眼が離せない!といったストーリー。
 えー、徹頭徹尾、終始一貫してバカミスです。バカじゃない所を抽出できることができないくらいのバカミスです。「なんだよ、これw」と言いながら読みしょう。小学生でも思いつきそうな事を大真面目に論議するというのが面白い。

・「正直者の逆説」
 さて、なぜ『大きな森の小さな密室』でひとつのエントリを書こうと思ったかというと、実はこの短編が理由だ。この短編だけ副題が”??ミステリ”となっており、読者は途中までこの短編がどんなミステリのテーマにそって書かれているかは分からない。そして、この短編を語るにはどうしてもネタバレせざるを得ないので、読み終わった人だけ以下、選択反転で読めるようにしておく。
(※以下、ネタバレ注意。選択反転)
 この短編は、メタミステリである。つまり登場人物は自らが小説中の登場人物であることに気が付き、その特性を持って犯人を突き止める。というか気がつかないと謎が解けない様になっている。
 まず、冒頭の文章を引用する事から始めよう。

 [読者へのヒント]
   ミステリは物語展開の都合上、目撃者や関係者の証言を推理の根拠に用いることが頻繁に行われる。
   しかし、登場人物の発言を無批判に信ずることは常識に反しているし、また現に犯人は必ずと言って
   いいほど嘘を吐いている。だからといって、登場人物の発言を疑ってかかり、
   全てに傍証を求めたなら、物語展開はとても煩雑で面白味のないものになってしまう。
   そこで、今回は作者より、読者へのヒントとして、以下のことを明言し、保証することにする。
   本編作品中、犯人以外の登場人物は決して故意に嘘を吐くことはない。

 と冒頭で小林さんよりメッセージが明記されており、これがのちのち重要な事になってくるのであえて明記しておいた。
 さて、ストーリーだが、読み終えた人だけがこの文章を読んでいるはずなので書かなくてもいいかとも思ったが、一応簡単に振り返っておこう。
 雪で閉ざされた山荘で起こった資産家である金盥狆平殺人事件。容疑者は自称探偵・丸鋸、助手の”わたし”、狆平の甥・怠司、姪の難美、タクシー運転手の平平平平、召使の綾小路、医者の梅安の7人。丸鋸は自作のソフトウェア”万能推理ソフトウェア”を用い犯人を特定しようとするが、ネットワークが断絶したことにより中途で推理が終わってしまう。そのソフトウェアが言うには”そもそもの前提、もっとも初めの部分”に気付けば難なく犯人を特定することが出来るというのだ。
 そして、ここからメタミステリとなる。”そもそもの前提、もっとも初めの部分”とは上記で引用した作者の断り書きのことだと、いとも簡単に丸鋸は小説の世界を飛び出す。そして謎解きが始まる...のだが、一読目で249ページからの論理問題を理解することが出来た人はいるだろうか?そして、難美が最後にした質問に答えられた人はいるだろうか?
 少なくとも私は、最初3時間ほど考えて諦めた。そして、ネットに回答を見出そうとしたのだが、本作をレビューしているサイトはままあれど、どのサイトもこの2つの問題についてはなんとなく言葉を濁していたり、触れていなかったりしていて、全く役に立たなかった。分からないなら分からなかったと書け!と憤慨した私は、こうなっては仕方がない。今後、本短編を読んで詰まった人のために立ち上がろうではないか!自分で考えよう、となんども読み返し、紙に要点をまとめ、平易な文章に直し、あれやこれや考えて自分なりの解答を見出すことに成功した。それが以下のリンク先である。

 
「正直者の逆説」の質問のメタ化に対する考察

 本当はPDFでアップロードしたかったのだが、やり方が分からなかったので画面をキャプチャーしてJPGにしていることについてお詫びしたい。このリンク先の文章こそ、今回の更新で私が一番閲覧者に伝えたかったこと、また本当にこれで合っているのか教えて欲しいことだ。是非、読んで頂いて、
なんらかの反応を頂戴できればと思っている。
(※以上、ネタバレ終了)


・「遺体の代弁者」
 この作品には”SFミステリ”という副題が与えられている。SFミステリ、詳しく言うならば、この作品ではSF的ガジェットと使ったミステリである。
 前向性健忘症の田村二吉は、丸鋸博士と名乗る人物に脳を改造され、殺人事件の被害者の海馬をスライスしたものを脳に移植することで、一時的ではあるが被害者の記憶、殺害された当時の記憶を脳内で再生することができるようになっていた。そして、有村隆弘とその愛人・烏丸燐子がビルから転落死した事件で容疑者扱いされている有村の妻・瑞穂が事件に関わっているかどうかを確認することになるのだが、被害者の脳から得た情報と瑞穂の発言との間に些細な違和感があることに気付き…、といったストーリー。
 前向性健忘症、すなわち新しい事が記憶できない(田村の場合は約30分が限度)という設定を感じさせるかのように、文章にスピード感があってとてもスリリングな作品だった。また、解き明かされるトリックとまさかの展開が後半で待ちかまえており、あっ!と驚かされるだろう。

・「路上に放置されたパン屑の研究」
 なんだか小説のタイトルとは思えないこの短編に振られたサブタイトルは”日常の謎”
 ある日、田村二吉の住む部屋に岡崎徳三郎と名乗る高齢の男性が、君は有名な探偵と聞いた、ついては私がいま現在抱えている問題を解決してほしい、と訪ねてくる。しかし田村は前向性健忘症を患っているが、サラリーマンをしているという記憶は残っており、わたしは探偵ではありません、何かお間違えでは?と断ろうとする。しかし岡崎の巧みな話術と岡崎が抱えているという問題に興味をもった田村は素人の意見でよければ、と承諾する。その岡崎が抱えている問題とは、2,3日おきに特定の場所にパン屑が落ちている、というなんとも不思議なもの。なんとかパン屑が落ちている一般的な理由や、落ちている場所などから理由を探ろうとするが、真実らしい結論には辿りつけず、岡崎は帰っていくのだが、田村が記憶を失くした頃にまた訪れてきて同じ謎を解いてもらおうとする。いったい岡崎の狙いは何なのか?なぜパン屑が道端に、それも特定の場所に落されているのか?...、といったストーリー。
 この短編が、本作品の中で個人的に一番好きな話である。気付かなければどうともないが、一旦気付けばやたらめったら気になる”日常の謎”として挙げている謎が、道端の特定のポイントにパン屑が落ちているということというのはくだらないけど気にならざるを得ない魔力を秘めている。そして、その謎が解かれた!と思った矢先に訪れるブラックともいえるオチがまた堪らなく良い。

【総括】
 全短編に渡って言えることは、私が個人的に小林さんのミステリ作品の魅力と考えている、冷徹な論理に基づく登場人物同士の会話が冴えわたっていることである。時に騙し合い、厳然たる事実を突き付け、誘導尋問をしながら追い詰めていくのだが、その過程に背筋がゾクゾクするほどの快感を味わうのだ。話者同士が理知的なのが快感を味わわせる理由の一端かもしれない。
 また、どの作品もオチがいい。「これにて一件落着!」といったようなちょっとしたユーモアで、緊張の連続を強いられた後訪れる上記の快感の余韻に浸りながら、クスッととこさせる。完璧ではないか。
 というわけで、初めて小林泰三作品に触れる人にも、小林泰三ジャンキーの人にも満足できる1冊に仕上がっている。漫画家の石黒正数さんが好きだという人、最近の「世にも奇妙な物語」に不満を感じている人に特にお薦めしたい。



というわけで、えらい長くなってしまいましたが、今回のレビューはこれにてお終い。また近いうちにお会いしましょう!
書評 | Comments(2) | Trackback(0)
Comment
結構残酷な描写もあるね
小林泰三さんの新作『アリス殺し』を読みました。
アリスの世界とのリンクが徐々にわかっていくドキドキが良かったな〜。

birthday-energy.co.jp/
ってサイトは小林泰三さんの本質にまで踏み込んでましたよ。宿命を読み取ると、工夫に工夫を凝らし、豊かな遊びを文学の世界で実現する、才能は名誉や自尊心、なんだそうな。コラムをぜひ読んでね♪
「ハレる運命2014」も配信中!!
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